ペンタックスとラジオと生活と

PENTAX K-S2を振り回す休日記

3つの終着駅を巡る旅―工業地帯の寂しきローカル線、鶴見線に乗る(前半)

aIMGP2393

 DA 55-300mm PLMを購入してからというものの、すっかり撮り鉄にハマってしまいました。その飽くなき鉄道欲は収まる気配がありません。編成写真を撮るだけでは面白味に欠ける、そう考えた私はかつて熱中していた「終着駅」に目を向けました。

東京圏内でも「終着駅」を感じさせるところはどこでしょうか?池袋駅東武線・西武線上野駅常磐線・京成線など、東京には終着駅をいくつも持つ巨大ターミナル駅があります。しかしそこには終着駅がはらんでいるはずの「さびしさ」を微塵も含んでいません。

そこで今回見つけたのが、神奈川県鶴見駅から京浜工業地帯に伸びる鶴見線でした。海芝浦・大川・扇町の3駅をもつこの路線は、本数の少ない都会のローカル線として割合有名です。己の終着駅への執着心に身を任せ、DA16-85mmとDA55-300mmを準備して乗り込みました。

 鶴見線とは?

 

鶴見線とは、神奈川県横浜市にある鶴見駅から扇町駅に至る本線と浅野から海芝浦駅に分かれる支線、安善から大川駅に至る支線の刑路線を合わせた電車路線です。各駅とも京浜工業地帯のど真ん中にある工業路線としての役割を持ち、工場へ通勤する労働者の旅客輸送と各工場への貨物輸送が主な目的となっています。

運行本数は通勤客の多い朝夕は多く設定されている一方、通勤客のいない日中はガランと空いているため1時間に2本程度と少なめです。鶴見という賑やかな工業街にありながらも、少ない本数と工場立ち並ぶ珍しい風景から、東京近郊のローカル線としてコアな人気がある路線です。

日中の運行形態についてもう少しお話ししましょう。日中のほぼすべての電車は鶴見駅を出発し、国道駅・武蔵小野駅を経由して走ります。多くは本線の浜川崎駅・あるいはその先の扇町駅までの運行です。一部列車は浅野駅で本線と分かれ、海芝浦駅までゆっくり乗客を乗せて行きます。残りの大川駅はどうかというと、日中は一本も運行されていません。そのため通勤ラッシュタイムの朝夕を狙っていかないと乗ることができません。

鶴見線の概要はさておき、私のルートについてあらかじめ書いておきます。私は鶴見駅を出発して浅野駅に到着後、写真を撮りながら海芝浦行に乗り換え。海芝浦で折り返して浅野で扇町行に乗って終着扇町駅に到着。折り返して武蔵白石で降り、徒歩で大川駅に到達。また徒歩で引き返して武蔵白石で浜川崎に抜け、最後は浜川崎で南部支線に乗り換え、尻手方面に抜けて旅を終えました。

つまり鶴見駅→浅野駅→海芝浦駅→扇町駅→武蔵白石駅大川駅→武蔵白石→浜川崎駅の順で乗っていったということです。

出発点の鶴見駅

aIMGP2308

 1300、鶴見発。

私が鶴見線に乗った日は7月らしい猛暑になりました。

さあ京浜東北線から乗り換えようとすると、ただの乗り換えなのに改札があるではありませんか。もしや鶴見線からは別料金か?と用心しながらPASMOを通すと改札の画面には「引去額:0円」の表示。別料金ではなさそうで安心しました。この中間改札があるのは、おそらく不正乗車防止のためと思われます。

aIMGP2326

 駅構内に入るとイエローとブルーの205系が待っていました。

電車は4両編成。普通列車、浜川崎行きです。日中のため乗客はそれほど乗っていません。座席占有率は40%、といったところでしょうか。

浅野駅で乗り換える

aIMGP2328

 1307、浅野着。

ごちゃごちゃとした工業街特有の住宅街を抜け、国道駅を経由して7分、分岐駅の浅野駅に着きました。電車からホームに降り立つと、なんとも異様な光景が目に飛び込んできます。

その線路はまるで休止線のように草が生え放題になっていたのです。そのあたりの光景もモシャモシャと木々が生い茂っているではありませんか。自分はいきなり地方のローカル線に放り込まれてしまった、そんな錯覚を覚えました。

aIMGP2366

 草がどのように生い茂っているのかを見たくて、私はスコープ代わりに望遠レンズに交換してファインダーを覗いてみました。すると増々休止線に見えて仕方がないのです。通常、電車が一定本数通れば、その電車がバラスト上に転がっている種を潰したり吹き飛ばしたりするので、こんなにボーボーになることはないはずです。

ただ錆びずにツルツル輝いているレールの表面が、その路線が休止線ではなく、ちゃんと生きていることを物語るのでした。

aIMGP2343

 賑やかな女子の声が聞こえます。部活帰りの女子中学生です。何かの部活の夏大会が終わったのか、ユニフォームのまま思い思いにおしゃべりしていました。

ローカル線の乗客の多くは、自動車を運転できない学生が占めます。山陰のローカル線だろうが東北の閑散とした幹線だろうが、乗れば必ず部活帰りの中高校生が車内で騒いでます。そんな田舎の路線を思い出しました。

aIMGP2355

 そろそろ海芝浦行の電車がやってきます。ただし浜川崎方面と海芝浦方面では発車ホームが違うため、注意しなければなりません。

先ほど私が立っていたのが浜川崎方面の1・2番線。そこから踏切を渡って右に曲がると海芝浦方面の3・4番線、この写真のホームにたどり着けます。

aIMGP2374

その2番線から鶴見行電車がやってきました。あまり1・2番線でグズグズしていると踏切が下りて電車がやって来るので、乗り換えが出来なくなってしまいます。

この電車はさっきまでおしゃべりしていた中学生一行を乗せると鶴見に向かって、そのまま草生す鉄路の彼方へ行ってしまいました。中学生がいなくなり、辺りはすっかり静かになってしまいました。

aIMGP2390

 そのわずか数分後、こんどは鶴見方面から4両の電車がゆっくり分岐器を通過してきます。待ちに待った海芝浦行です。海芝浦駅観光をするであろう家族連れや鉄道ファンを乗せて、大きく右カーブをゆっくり曲がりながら、工業地帯を海沿いに走るのでした。

1337、浅野発。

きっかり30分の滞在でした。

海の臨める終着駅「海芝浦駅」

aIMGP2393

 1341、海芝浦着。

浅野を出るとすぐ左手に海が見えます。予想に反して海はさほど汚れておらず、ホームに降り立つや否や「ああ、いい景色だな」と思わずつぶやくほど美しい風景でした。

aIMGP2401

 終着駅に必ずあるもの。それは長いレールの終わりを告げる「車止め」でしょう。頑丈なコンクリート製の車止めは、万が一電車がオーバーランしても突き抜けていかないように、我が身を犠牲にして電車を止めると言います。私はそんな車止めの健気さと、終点らしさに、すっかり惹かれてしまった者です。いつかは車止めコレクションと称して各地の車止めを収集したいものです。

aIMGP2403

 海芝浦駅は無人駅であるがために、一般向けのゲート付きの自動改札はありません。その代りにSuicaPASMO向けに簡易型改札が備え付けられています。ゲートがないからと言ってカードを通さずに引き返してはいけません。折り返し乗車という不正乗車になってしまうからです。

ところで今私は「一般向けにはゲート付きの自動改札はない」と言いました。では一般ではない人向けにはゲート付き改札があるのか、というと、実はあります。

この簡易改札機の右側には東芝関係者用の改札があります。この改札を通ることで物理的には外に出られます。それで海芝浦駅のすぐ横は東芝の工場に出られるようになっているのですが、関係者以外はその工場に入るどころか、関係者専用の改札を通ることすらできません。

つまりこの駅は、外に出ることができないという、世にも珍しい駅なのです。海芝浦駅を解説する時に「外に出られない駅」とキャッチコピーされているのを見かけますが、まさにその通りです。

aIMGP2418

 では一般人はどうすればいいのか、という話になりますが、実は簡易改札のすぐ先に「海芝公園」と言って、京浜工業地帯の海を臨める細長く小さな公園があります。私たち乗客はそこで写真を撮ったり遠くの横浜ベイブリッジをのんびり眺めたりと、思い思いに過ごすことができます。

aIMGP2415

 乗車駅証明書を受け取って風景をバックにいれてみました。この証明書は海芝公園入口にあるオレンジの機械からボタンを押すことで手に入れることができます。

aIMGP2425

 先ほども述べた通り、おとなりは東芝の工場です。そこに寄り添ってひっそりあるのが、この海芝浦駅です。

aIMGP2432

 そうこうしているうちに発車3分前になりました。この列車を逃すと次は1時間45分後になり今後の予定に大打撃を与えてしまいます。おまけにこの駅からは外に出られないため、歩いて浅野に戻ることもできません。名残惜しいですが、きれいな海の景色をイメージセンサーと両目に焼き付けて駅を後にしました。

1400、海芝浦発。

 

IMGP2442

電車はゆっくり左に弧を書いて走ります。線路はやはり草生しています。

1404、浅野着。乗り換えて、1407、浅野発。

真夏の陽光降り注ぐ車内でこじんまりと座りながら、今度は2つめの終着駅、扇町に向かうのでした。

 

 

※この続きはまた後日更新します。「扇町」「大川」の2つの終着駅のほか、不思議な乗換駅「浜川崎」も撮ってきました。お楽しみに。

 

※7/20追記

続きを更新しました。

taklight.hatenablog.com