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PENTAX K-S2を振り回す休日記

3つの終着駅を巡る旅―工業地帯の寂しきローカル線、鶴見線に乗る(後半)

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 (この記事は前回の

の続きになります。前回記事は鶴見線の概要と、鶴見線で最も有名な終着駅「海芝浦駅」を紹介しています。そちらも併せてご覧ください)

今回は残りの2つの終着駅である「扇町駅」と「大川駅」、それに乗換駅として珍しい機構を持つ「浜川崎駅」を紹介します。使用したレンズは定番コンビのDA16-85mmとDA55-300mmPLMです。

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14:07に浅野駅を出て浜川崎方面に乗り10分ほど工業地帯を行くと、本日第二の終着駅「扇町駅」に着きました。

 猫もくつろぐ穏やかな終着駅「扇町駅」

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 1417、扇町着。

涼しい電車から降りた途端に熱気が身体を襲います。暑さと太陽のまぶしさにややクラクラしながら駅舎に向かおうとしました。

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 おっと、駅舎に行く前にやらねばならぬことがあります。一つ目は駅名標の記録と、

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 二つ目は線路が切れる終着駅を意味する「車止め」の記録です。前回も言ったような気がしますが、私は鉄道の車止めを愛しています。ドンと構えるコンクリートの制走堤とヒョロっと伸びる白黒の車止標識が、ここが鉄路の終わりであることを告げるのです。どことなくドラマチックな存在です。

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 扇町駅は無人駅です。そのためか、海芝浦駅同様ゲートのない簡易自動改札機が置かれています。紙のきっぷの場合は真ん中の青い箱に入れるようです。

さあ早速駅舎から出ていきましょう。おや・・・?

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 なんと野良猫が日かげを求めにたむろしているではありませんか。

それも一匹だけではなくて、何匹も!

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 日中元気に駆け回るはずの野良猫も、この日の猛烈な暑さには敵わなかったのでしょうか。ときたま場所を変えてのそのそ動くだけで、ほかは目を閉じてじーっとしています。涼やかな日かげを得て一息といったような表情です。

 

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 猫を必死に捉えようとあくせくするうちに発車時刻がやってきてしまいました。ここに着いたのが14時17分で、出発が14時25分ですから、わずか8分間の滞在となりました。名残惜しいですが、ここは旅路を急ぎましょう。

 

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 電車に乗り込む前にホームの裏側を覗いてみました。

見ての通り線路がぼちぼち伸びています。奥側の分岐器の線路は表面が錆びてしまっていて当分使われていないようです。もしかしたら、もう死んでしまっているのかもしれません。

対して手前の線路は錆びず表面をキラキラさせており、まだある程度の電車が使っていることを匂わせています。旅客運行はこの扇町駅までですが、貨物はもっと先まで伸びているのかもしれませんね。

鶴見線は工業地帯にあるだけあって、いくつかの貨物列車が運行されている模様です。その詳細は分からないものの、推測するに東海道本線から浜川崎駅に向かって貨物専用路線が通り、鶴見線内ではその浜川崎から扇町駅やその他の貨物専用駅まで広がって運行されているかと思われます。

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 1425、扇町発。

鶴見行の列車に乗った私は、最後に寄る浜川崎駅を通り過ぎて、大川駅に最も近い武蔵白石駅で降りました。降りた客は私のほかに一人しかいませんでした。

1431、武蔵白石着。

電車も人も来ない、草生すさびしい終着駅「大川駅

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 武蔵白石から大川まではしばらく歩きます。武蔵白石の駅舎を出て右に曲がり、踏切を渡って一直線の道路を行って10分強、本日最後の終着駅、大川駅に到着です。

 

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 これは一体どういうことでしょう。何と草が生え放題になっているではありませんか。そういえば今私がいる踏切も動く気配がありません。そう、この駅は休日は誰もやってこない、隠れた秘境駅なのです。

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 駅名標もどことなく寂しげな表情をしています。辺りは工場ですから、平日はそこへの通勤者である程度の賑わいをみせそうです。しかし裏を返せばこの駅は通勤にしかつかわれないことになります。ラッシュのない平日の日中や休日は、誰も来やしない寂しい駅と化します。

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 駅舎に入るものは誰もいません。

鶴見線の3つの終着駅のうちこの大川駅は、観光客すらやってきてくれず、ひっそり地味に存在し続ける、旅情と哀愁あふれる駅です。

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 それにしてもどうしてこんなに人が来ないのか、そもそもなぜ電車ではなく武蔵白石駅からわざわざ歩いてきたのか、全ての疑問はこの時刻表を読めば解けてしまうでしょう。

答えを明かすと、この駅は休日にはたった3本しかやって来ないのです。朝の7時31分発と8時17分、夜の6時1分、この3本だけで休日は終わってしまいます。

一日3本というのは日本全国探しても中々見つかるものではありません。私が知っている範囲で挙げるならば、北海道・宗谷本線の音威子府幌延間、福島県只見線の只見~会津川口間(現在代行バスで運行されています)、岡山県芸備線の東城~備後落合間など、いずれも貴重な超秘境路線と言えるものばかり。

大川駅は、その秘境路線に肩を並べるほどの存在と言えるでしょう。

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 きっぷ入れも、ただ虚しく口を開けるばかりです。「ありがとうございました」の煤け具合が年季を感じさせます。

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 ホームに入って車止めを見てみましょう。夏の雑草に埋もれて、苦しそうに車止標識が顔を辛うじて出していました。その先はさらに草が生い茂っていて何も確認できません。

確か以前はここから貨物専用路線が続いていたという話を聞いたことがあります。今でも大川駅のホームからは3本の線路が敷かれています。ところが、そのうち2本は赤茶に錆びて既に生を失ってしまっていました。今は大川駅の旅客用の線路がただ1本、ホームに寄り添うように伸びるのみです。

「草生すかばね今もなお 吹くか伊吹の山おろし」

鉄道唱歌の一節を聞いたような気がしました。

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 列車の来ないホームのイスにどっかり座って、深々と目を閉じます。

するともわぁとした夏の熱気とサラサラと草同士の擦れる音のみがそこにあり、やがて終着駅の哀愁含む雰囲気が私を包み込んできます。都会の喧騒に疲れたとき、あるいは上手くいかないことが続いたとき、ここに来ればすべてが洗い流されてしまう...私にはそう思われました。

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 さて、そろそろ別れを告げましょう。

奥にあるオレンジのポスト状の機械から「乗車証明書 大川駅 車内又は着駅で運賃をお支払い下さい 29年7月9日」と記された証明書を受け取りました。

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 草生え放題のこの終着駅を始めてみたとき、こんな駅があるのかと、ただ驚いたばかりでした。しかし次第にこの駅こそが、私が追い求めていた理想の終着駅ではないかと思うようになりました。

同時にこれが私の人生ではないのか...そのような感傷に浸りながら、列車の走る武蔵白石駅に歩いて戻りました。1時間ほどの長い滞在でした。

この駅、鶴見線の3駅のなかで最も強くおすすめします。

おまけ:珍しい乗換駅である浜川崎駅

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 1610、武蔵白石発。1617、浜川崎着。わずか3分間、涼しい列車に揺られます。

 浜川崎駅鶴見線と南部支線(浜川崎―尻手)の乗換駅です。駅前に小さな商店があるのみで、その他めぼしいものは特にありません…という訳ではないのです。

上の地図をご覧になれば分かる通り、北には南部支線のホーム、南には鶴見線のホームといった風に分かれています。それぞれどうアクセスすればいいかと言うと、鶴見線跨線橋を渡って、外の通りに出てから、南部支線ホームに向かうというちょっと変わった構造になっています。

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 まずは鶴見線ホームの扇町方面にある跨線橋を渡っていくのですが、

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 ひとつだけ注意しなければならないことがあります。乗り換えの際は跨線橋にある簡易自動改札機に交通系ICカードをタッチしてはいけないこと。

タッチした場合は「浜川崎で出場して再入場した」扱いになり余計に運賃がかかってしまいます。いつもの癖でタッチしてしまわないよう、気をつけておきましょう。

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 跨線橋を渡れば通りに出られます。そのすぐに南部支線の方の浜川崎駅があるのでここに入ります。ここでも改札機にタッチしてはいけません。

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 南部支線側は柱が白く塗られた涼しげなホームです。この日は猛暑にやられていたので、ほっと一息できました。

ここより手前から列車がやってきます。日中は1時間に2本程度確保されているので安心できます。一方奥側に入って右の通路に入るとトイレにも行けます。もっともあまり綺麗とは言えないので利用するにはやや気が引けますが...

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 ただトイレまでに至る小路が絶好の車止め撮影ポイントです。がっちり列車を受け止めるコンクリのブロックに白黒の車止標識。そこにショック吸収のためのバラストが敷かれています。約30分後にやって来る列車を、私と同様いまや遅しと待ちわびているようで、いとおしい気分です。

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 もちろん正面からも車止めを撮ります。白黒の標識がまぶしいです。

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 やがて待ちに待った尻手行き電車がやってきました。熱々の身体で車内に入ると、強めに効いたクーラーの冷風が私をクールダウンさせます。ひんやりとした感触が一段と気持ちよく感じられました。

そして今日一日は充実したな、という達成感がこみ上げてきました。

 

 

東京から気軽に行けるローカル線、鶴見線

海の景色がすばらしい海芝浦駅、猫が寝転ぶ穏やかな扇町駅、そして哀愁漂わす秘境の大川駅が、いつでもあなたを待っています。

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